2018年07月13日
社会・生活
研究員
今井 温子
「うちの会社は最近、在宅勤務ができるようになったの。でも、ミーティングがあると、一人だけリモート会議システムで参加するのが申し訳なくて、30分だけのために出社しちゃう」「うちの会社も制度はあるんだけど、周囲が利用していないから取りづらくて...」―。最近、別の会社に勤める友人たちから、こんな話を聞く。新しい働き方が広がる一方で、それに伴う悩みも多いということだろう。
長時間労働や正社員と非正規社員の賃金格差を改善するため、企業や国会で働き方改革の議論が盛んだ。リコーグループも改革に積極的に取り組んでいる。例えば、今年度から週4日勤務などのショートワーク制度や、在宅勤務の対象が育児や介護をする人から全員に広げられた。
実は、私自身も2年前から在宅勤務をしている。通勤時間がない分、通常の就労時間よりも早めに仕事を始め、早めに終えることができた。フレックスタイム制度を利用して通常より早く会社に出社し、早めに退社したこともある。かつては働き方と言えば、休職か退職するしかなかったことを考えれば格段の進歩だ。
一方で、経験を通じて課題も実感した。使えるメニューが増えた分、制度の全体像を理解することが個人レベルでは難しくなっているのである。これは制度を利用する社員だけでなく、その上司や同僚も同じだ。
私も制度を利用する前、上司や同僚から「自分は何をすればよいのか」「システムの使い方はこれでいいのか」といった質問を受けた。自分で会社のルールやシステムの操作方法を調べて説明したが、制度が充実するほど、こうした手間は増えていくだろう。もちろん、リコーでも制度開始前に研修で説明は受けるのだが、細かい部分まで把握するのは難しいのが現実だ。
(写真)筆者
そもそも初めて経験する働き方なので、どんな困難が生じるのか本人自身に予測がつかないという問題もある。私自身、考えてもいなかった問題が生じて戸惑ったことや、「事前に問題が分かっていたら別の対応策を考えていたのに」と思ったことが少なくない。制度の利用者には職場が変わって間もない人や、初めて出産や育児を経験する人が多いはずだ。メニューを見ても自分にどれが最適なのか判断するには限界がある。
在宅勤務中に感じたのは、マネージャーとメンバーの間に入って制度の説明や調整をしてくれる「コーディネーター」がいてくれたらいいのに、ということだった。
例えば、在宅勤務に入る社員とその上司の双方から仕事内容や職場の状況を聞き、最適な制度やシステムを紹介する。あるいは、リモート会議システムの操作方法や使い方のコツなどを職場の全員にレクチャーすれば、先に紹介した友人のような気兼ねもなくなるだろう。コーディネーターが育児やマネジメントの経験者なら、どんな問題が起こり得るかについて事前に説明し、対処法を助言することもできる。マネージャーに業務が似た職場での成功事例を伝えれば、会社全体の生産性も上がるはずだ。
働き方改革は少子高齢化が本格化する日本全体の課題だ。会社の制度もこれからどんどん変わっていくのだろう。ただ、せっかくいい制度を作っても、積極的に使われないと宝の持ち腐れになる。改革を成功させるには、制度の活用法を組織横断的に説いて回る「伝道師」のような人材が必要なのではないだろうか。
今井 温子